「不安な童話」読んだよ

不安な童話 (新潮文庫)

不安な童話 (新潮文庫)

私は知っている、このハサミで刺し殺されるのだ―。強烈な既視感に襲われ、女流画家・高槻倫子の遺作展で意識を失った古橋万由子。彼女はその息子から「25年前に殺された母の生まれ変わり」と告げられる。時に、溢れるように広がる他人の記憶。そして発見される倫子の遺書、そこに隠されたメッセージとは…。犯人は誰なのか、その謎が明らかになる時、禁断の事実が浮かび上がる。

http://www.amazon.co.jp/dp/4101234140

わたしは絵画に造詣が深いわけではないのでどんな絵がいいとかわかりませんが、たまにひと目見ただけで思わず固まって見入ってしまうようなインパクトある作品に出会うことがあります。例を挙げると、わたしにとっては酒井駒子さんの描く絵がそれに該当するのですが*1、わたしはいつもその「この絵がすごく好き」という気持ちをどう表現していいのか分からなくて、好きだとかずっと見ていたいとかそんな陳腐なことしか言えない自分にイライラしてしまいます。
結局、わたしがその絵をうまく解釈して言葉に置き換える力がないだけなんですが、たとえそうやってうまく言葉に置換できなかったとしてもその絵を見たときの気持ちは何かしら心に跡を残してくれます。以前はその「言語化出来ない感想」が気持ち悪くて絵を見るのは好きではなかったのですが、最近はそういった感覚も意外に悪くないなと思い始めています。


さて。本作は25年前に亡くなった女性画家の展示会である絵を見た一人の女性が、見たはずのないある出来事をフラッシュバックで見たところから始まります。もしかしたら自分は25年前に亡くなった女性画家の生まれ変わりなんじゃないかという疑問を深める女性の不安や葛藤が読んでいるとジワジワと伝わってきます。いつもの恩田さんの作品とはまた違ったオカルトな展開におののきながらも、その実態がどうなのか知りたくて先へ先へと読み進めずにはいられず、気付いたら最後まで一気に読み進めてしまいました。ラストについてはかなり賛否が分かれそうですが、終わってみれば恩田さんらしい作品だったなと感じる作品でした。


絵画のもつ力と人間の記憶をテーマとして描かれたとても不思議な世界観が魅力的に感じられました。

*1:この本の表紙も描いてる画家です