ある日の明け方、ノーマ(キャメロン・ディアス)とアーサー(ジェームズ・マースデン)夫妻のもとに箱が届く。箱の中には赤いボタン付きの装置が入っていた。その日の夕方、スチュワート(フランク・ランジェラ)と名乗る人物がノーマを訪ね、ある提案を持ちかける。「このボタンを押せば、あなたは1億円を受け取る。ただしこの世界のどこかで、あなたの知らない誰かが死ぬ…」。ふたりは道徳的ジレンマに迷うが、目の前に1億円を見せられ、結局ボタンを押してしまう。果たして、ふたりの運命の行方は!? 1億円か死か、究極の選択がいま幕を開ける――。
『運命のボタン』作品情報 | cinemacafe.net
MOVIX宇都宮にて。
ボタンというのは本当に不思議なもので、そこにあるだけで何となく押したくなってしまいます。加えて、そのボタンの見た目がいかにも何か起こしそうな外観、例えば真っ赤で大きなきのこみたいな形のボタンであったとしたら余計にビシッと押したくなってしまうはずです。たとえそれが核ミサイルのボタンで、押したら最後、世界が滅びてしまうといわれてもわたしはたぶん押してしまうくらいボタンというのは魅力的な存在なのです。
本作は、ある夫婦が「そのボタンを押したら1億円もらえるけど、その代わり見知らぬ誰かが死ぬよ」といういかにも怪しい選択をつきつけられるところから物語が動き出します。最初は冗談だろうと期待半分、疑い半分だった二人ですが、家計が厳しかったこともあってお金欲しさに少しずつ心が揺れ始めるのです。それでも自分たちが1億円を得る代償として誰かが死ぬなんて言われてしまうとそれはそれで気持ちがよいものではありませんし、二人ともそれを理由に押すことをためらうのです。
ところが、それでもお金が欲しくてたまらないノーマはいろいろと理由をつけてボタンを押してしまうわけですが、このボタンを提示されてから押してしまうまでのくだりの見せ方がとてもうまいなーと感心させられるのです。
「やってはいけないことなんだけど、でもやってみたいこと」に手を染めようというときに、人はそのことを何とか正当化しようとします。「みんなもやっているから」とか「ちょっとだけだから」とか何かしら自分なりに受け入れられる理由を見つけて自分を納得させることで、最後の一歩を踏み出そうとするわけです。
この作品では、ボタンを押すことを正当化しようと試みる2人の姿がとてもうまく描かれていて、ボタンを分解して中を確認したり、どうせ何も起きないよと繰り返し口に出すことで押すことで誰かが死んでしまうということをひたすら頭の片隅に追いやろうとしているのです。その小ささというか、小市民さがすごくいいなーと感じたんですよね。
だってボタンを押したことで誰かが死んだかどうかなんて知ることは出来ないんだし、仮に死んでしまったところで周囲の人たちに責められるわけでもありませんからそれこそ気に病む必要なんてないともいえるのです。ボタン押すだけで1億円がもらえたらラッキーという程度の考えで押しちゃう人がそれこそたくさんいるんじゃないかと思っていたんです。
でも実際には、万が一誰かを死に至らしめてしまった場合には良心の呵責にたえられないんじゃないかという不安を抱えながらボタンを押してしまった人の姿が描かれていたことにわたしはまだまだ世の中捨てたもんじゃないなと感じたんですよね。
この一連の流れは本当におもしろくてすばらしかったです。
ただ、ボタンを押してしまって以降の展開はずいぶんとぶっ飛んだ内容となっていて、個人的にはあまりに突然すぎて非常に残念に感じました。それまでの「ボタンを押す/押さない」というジリジリした展開から一転、突如壮大な話に飛んでしまってしばし呆然。結末まで見れば、なぜこんなことをしているのかが理解出来なくもないのですが、それにしても前半と後半でノリが違い過ぎるんですよねえ。
と、わたしは後半の展開があまりおもしろいとは思えなかったのですが、でも前半のボタン押す押さない騒動だけで充分満足しました。
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