「アンネの日記」読んだよ

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)

アンネの日記』が最初に世に出たのは1947年。そして91年に、47年版でカットされていたアンネの人間味あふれる記述(鋭い批判精神や性のめざめ、など)を復活させた「完全版」が出版された。この「増補新訂版」は、98年に新たに発見された5ページ分を加え、翻訳資料をさらに徹底させたもの。まさに「アンネの日記・決定版」といえる。

http://www.amazon.co.jp/dp/4167651335

最初の数ページを読みながら、あまりにこましゃくれたアンネの文章に「この子はなんて生意気なんだろう」と怒りまじりの不快感をおぼえずにはいられませんでした。特に冒頭のクラスメイトの紹介文があまりにひどくて、いくら個人的な日記とは言え、あまりにあまりな紹介の仕方に呆れてしまいました。どのくらいひどいのかぜひ知っていただきたいのですが全部引用するのもアレなので最初の一人の紹介を抜粋します。

ティー・ブルーメンダールは、なんとなくみすぼらしく見えますけど、たぶん、ほんとに貧しいんだと思います。


もうこの時点で読む気力がかなりそがれましたし、ここから500ページ以上こんな調子だったらとても最後までは読めないだろうと諦めそうになったのですが、とは言え、当初の目標もありますので読まずに終わらせてしまうわけにもいかず、渋々読み進めてみました。ほんともう渋々という言葉がこんなにふさわしい顔はないような顔をして読書していたと思うわけですが、しばらくこんな調子で進んでいった物語に突如隠居生活を余儀なくされるという大きな転機が訪れるのです。
この日記が書き始められるずっと前から、アンネたちはユダヤ人であることでドイツ軍から目を付けられていたようなのですが、家族が連行されるかも知れないという情報を聞きつけたためにある場所に隠れて生活をすることになります。自由に外を出歩くことはおろか、日中は物音を立てることも出来ないことにアンネは徐々に不満を覚え始めます。
さらに、その場所にはアンネたち家族だけではなくおなじみの上にある別の家族や見知らぬおっさんも同居することになるのですが、最初は人が増えて退屈しなくなったと喜んでいたアンネも時間が経つと共に彼らとの人間関係に悩むようになります。15歳という多感な年齢の少女が他人と同居して自由をうばわれているわけですから悩んで当然ですよね...。


そしてそのあたりを境に、最初は読むに耐えなかったアンネの日記も徐々にその内容が変わっていきます
当初は学校の友だちや同居人の多くをこきおろしてやまなかったアンネですが、狭い場所にこもって考え事ばかりしていたせいか自分自身と向き合って彼女自身が抱える問題点を分析しはじめます。自分のどういうところがよくなかったのか、どうしたらいいのかということについてしっかりと考えて行動に移すアンネは15歳とは思えないほどしっかりしていて、彼女の大人びた対応にはおどろかされます。


もうここまでくると、わたしは彼女の人となりをとても理解しているように感じていて冒頭に感じていたような苦手意識は完全に雲散していました。そして、彼女が一日千秋の気持ちで心待ちにしている「戦争の終わる日」を彼女と一緒に待ち焦がれているような心境になって読み進めるようになっていたのです。
わたしはこの日記を読みながら彼女の意見を繰り返し繰り返し読むことで、アンネという一人の少女の考えや思想を知ることができました。そしてそういったものを知ることで、彼女のひとつひとつの考え方やその本意というか発言の真意を理解できるようになったわけです。


そうやって彼女の気持ちを受け入れていった矢先に訪れた突然の終わり。
それは彼女の死や戦争の終わりという明確な形ではなく、日記が書かれなくなるということで終わりを迎えたのです。この日記の終わりがこうであることは知っていたはずなのに、気付けばわたしはアンネといっしょに戦争の終わりがくるのを待ち焦がれていました。彼女がいつかあの狭い隠れ家から抜け出して、自分の才能を思う存分発揮する日がくることを当然のように待っていたのです。
だからこそきつかった...。
読み終えたときの喪失感。これは本当に他に類するものがないくらいに強烈で、最後の日記が終わった瞬間にいたたまれなくて座ったり立ったりしながら果たしてわたしはどうしたらいいのかわからなくなってしまいました。


最後の最後まで前向きに生きることと向き合っていた彼女の日記からは、とても死に瀕している人間の悲壮感は感じられなかったのです。だから、最後の日記を読み終わるまで何の疑いもなく生き延びたあとの生活を思い浮かべながら読むことができたのです。
正直に言って、自分がアンねと同じ境遇にあったとして、果たしてわたしは彼女のようにつよくいられるだろうかと考えるとそんな自信はまったくありません。わたしが書いた日記には愚痴が書き連ねられていて、後世にはとても残せないようなものになっていたに違いないのです。


最初はとても読む気にならなかった日記にこれほど惹きつけられるとは思っていませんでしたが、改めて思い返してみると、アンネの気持ちの強さとそれを正確に表現できる文章力の高さが本当にすばらしい作品でした