「フィリップ、きみを愛してる!」見たよ


警察官として妻子と共に模範的な人生を歩んできたスティーブン(ジム・キャリー)。大事故に遭ったのをきっかけに、彼は実はゲイである自分に正直に生きることを決意する。セクシーな彼氏とゴージャスな生活を送るために、大金を手に入れようと詐欺を働いたスティーブンだったが、あえなく刑務所に送られてしまう。だが、そこで待っていたのは、シャイでキュートなフィリップ・モリスユアン・マクレガー)との運命の出会いだった。一目で恋に落ちた2人は、ふたりきりの房での幸せな日々を送る。しかし、スティーブンが急遽出所することになり、離れ離れになってしまうことに…。ジム・キャリーユアン・マクレガーがゲイ・カップルを演じる、実話を基にしたラブストーリー。

『フィリップ、きみを愛してる!』作品情報 | cinemacafe.net

MOVIX宇都宮にて。


大人になってからはじめて分かったことがたくさんありますが、その中でもとてもおどろいたのは自分が考えていることを他人に伝えることは思いのほか難しいということです。何気なく言った一言を深読みされて険悪な雰囲気になってしまったり、その誤解を解くために言葉を重ねてみてもどうしてもそれが伝わらなかったりと、考えていることをただ伝えて理解して欲しいだけなのにそれがうまくいかないことが何度もありました。


このように気持ちがうまく伝わらない理由はたぶん2つあって、ひとつはわたしの伝え方が下手だということ、そしてもうひとつはある程度の年に達した人間同士が理解しあうことはむずかしいということです。これについてもう少し踏み込んでみます。


前者については単なる技術ですので、わたしがもっと場数を踏んで伝える技術を磨くことで改善されるのではないかと期待していて、実際に働き始めた頃よりはずいぶん他人に気持ちや考えを伝える力がついてきていると感じています。例えば昔はわたしの言葉には見向きもしなかった人にはどうしたらよいのか分からなかったのですが、今であればせめて耳をかたむけてもらえる程度には興味をもってもらえるような話し方や説明の仕方をいくつか知っています。
というわけでこちらについては継続して改善中です。


で、問題は後者。
結局どこまで伝える力を磨いたところで伝わらない相手には絶対に伝わらないというのがわたしなりの結論なのですが、いきつくところそれは伝える側の問題ではなくて受け取る側の問題だと思うからなのです。どんなに言葉を尽くしたところで相手がそれを承諾しなければ伝わらないんですよね。
こう言い切ってしまうと「自分に伝える力がないことを相手の責任に転嫁している」と言われそうですが、半分そのとおりかも知れませんが、残りの半分はやはり受け手に問題があり責任があると思います。


本作は、愛し合っているけれども両者の価値観、主にスティーブンがフィリップに対して示す愛情表現をフィリップが受け止めきれずにすれ違う姿をコミカルに描いています。好き合う者同士が互いに理解しあえずに悩む、という言葉だけを見れば悲壮感がただよいそうな気もするのですが、この作品ではスティーブンを極端に前向きな人間として描くことでコメディと呼んで差し支えないほど観る側を楽しませる作品になっています。まさかそんな方法で...と、驚くよりも呆れてしまうような手段で脱獄を繰り返すスティーブンの行動には笑わされっぱなしでした。


結局スティーブンとフィリップがこのすれ違いの状況を改善して幸せに暮らすことになるためには、スティーブンが自身の愛情表現をフィリップが受け止められるように改善するのではなく、フィリップがスティーブンのいまの愛情表現を受け止められるように変わるしかなかったのです。上に書いた言い方で言えば、伝える側ではなく伝えられる側が変わることで改善されたわけですが、そこに至るまでのフィリップの心の揺れ動き方がとても乙女チックでしてその機微が伝わってきたのもなかなかよかったです。


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