「幸せはシャンソニア劇場から」見たよ


1936年パリ。下町の人々から愛されるミュージックホール・シャンソニア劇場は、不況のあおりで不動産屋に取り上げられてしまう。劇場の従業員・ピグワル(ジェラール・ジュニョ)は仲間と劇場を取り戻そうと、美しいドゥース(ノラ・アルネゼデール)の歌声を頼りに再び公演を始めるが、頼りの彼女もすぐに去ってしまい、劇場は風前の灯火に…。別れた妻の元に引き取られた一人息子・ジョジョにも会うことも許されず、沈むばかりのピグワルだったが、ある日突然、歌姫として成功したドゥースが戻ってくると、たちまち劇場に人があふれ、シャンンソニアは見事に復活、毎夜満員の華やかな舞台が繰り広げられる。だが、順風満帆でみんなが浮かれる革命記念日の前夜、事件が起きた…。

『幸せはシャンソニア劇場から』作品情報 | cinemacafe.net

宇都宮ヒカリ座にて。
秋田のシアタープレイタウンで一度だけ観た予告しか知らずに観に行ったのですが、とてもすばらしい作品でした。控えめに言っても今年観た作品の中でも指折りの作品であることは間違いなくて、終始作品から放たれている穏やかな力強さに圧倒されてしまいました。深々と雪が降り積もるラストシーンのように、静かだけれどもとてもあとに残る作品でした。


わたしは昔から暗記力がとても悪かったので、学生の頃は数学とか物理みたいなあまりたくさんのことを暗記しなくてもいい科目が好きでした。歴史や地理なんてのは年号やら事件やらを覚えなくてはいけないと思い込んでいたために苦手意識がどうしても拭いきれず、いまでも歴史や地理に関しては非常識と言われてしまいそうなくらいに知らないことだらけです。
映画を観るようになってからは幾分興味をもつようになりましたが、それでもまだまだ歴史や地理についてはかなり無知であるといえます。


話はちょっと変わりますが、わたし自身、想像力が欠けているなと感じることがあります。例えば、自分が行ったことのある場所に関連していたり、もしくは物心がついて以降の時代の空気がどうだったのか覚えている程度昔の話については現実味をもって受け止めることが出来ますが、これに該当しないことについては他人事というか架空の物語として受け止めるのが精一杯でした。
さらに正確に言えば自分の過去や現在とのリンクが見つけられなければ、たとえどんなにリアルな映像であっても、たとえどれだけ想像しやすい物語であっても、わたしはこの世界とはまったく別のパラレルワールドの出来事を聞いているような気分が抜けなかったのです。


もちろんそれが悪いというわけではなくて、単に「どんな物語でも真にその時代、場所に居合わせているような空気を感じることは難しい」というだけのことなのですが、本作はそんな難しさをいともやすやすと乗り越えて、観るものを作品の世界に連れ込んでしまう作品だったのです。時代も場所もまったくわたしの人生と重なることのない物語でありながら、でもわたし自身がこの時代、この場所を生きてきたことのように受け止めてしまうほどにこの作品には時代の空気がとても濃く練りこまれていました。
臨場感という言葉だけではとても表現しきれないくらいに、この時代のすべてを身をもって感じられる何かがこの作品にはあったと感じました。


そんなわけで本当に記憶に残るシーンがたくさんあったのですが、わたしはドゥースが人々の前で歌うときに彼女の背中越しに観客席を映すシーンが特に大好きでして、あの歌い始める瞬間、つまり空気が変わる瞬間に何度もゾクゾクさせられました。あの感覚をおぼえるたびに、あのシーンにはこの作品のよさのすべてが詰まっているような気がします。


不意打ちのようにこういうすばらしい作品と出会えることが、日々映画館に足を運ぶモチベーションを生み出してくれます。


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