- 作者: 佐藤多佳子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/08/28
- メディア: 文庫
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佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。そして、ぼくと佳奈。たがいに感電する、不思議な図形。友情じゃなく、もっと特別ななにか。ひりひりして、でも眩しい、あの夏。他者という世界を、素手で発見する一瞬のきらめき。鮮烈なデビュー作。
佐藤多佳子 『サマータイム』 | 新潮社
幼い頃の記憶というのは不思議なもので、とても大事なことはあっさりと忘れているくせにものすごく些細なことは意外にしぶとく覚えていて忘れられずにいたりします。
例えば、幼い頃に隣の長屋みたいなアパートに双子が住んでいてその2人とは毎日行き来してたくらいものすごく仲がよかったのですがその二人の名前が思い出せずにいます。あだ名ではなくちゃんと名前(一個年上だったので君付けで呼んでた)で呼んでいたはずなのですが全然思い出せない。あんなに仲がよかった友達の名前を思い出せないなんて本当に悲しいのですが、一方でこれまた近所に住んでいた同い年の友達が、自宅近くの沼に一緒に遊びに行った時に橋から落ちて泥だらけになってしまい泣きながら帰ったという非常にどうでもいいことは鮮明に覚えています。そもそも何でその沼に遊びに行ったのかとか、落ちる直前にかわした会話の内容も覚えているくらいくっきりはっきり記憶しているのです。
覚えていたいことと覚えていられることは別ものなんですよね...。
さて。本書は一人の少年の中に疑問符付きで記録されていたある出来事を、関係していた3人それぞれの視点から見ることでその全容が明らかになるというおもしろい構成になっています。別に「謎」というほど大層なものではないのですが、ぼんやりと「あれってなんだったんだろうな」という記憶を多角的に見るというのが非常に楽しく感じられました。
わたしの記憶の中に残っている未だに腑に落ちないあれとかこれも、こういうふうに他人の視点を交えて理解できたらいいのになと思ったのでした。
ちなみに本書の著者である佐藤さんの他の著書を実は読んだことがあって、「黄色い目の魚」という本なのですがそちらもとてもお勧めです。夏休みらしい開放感と10代の頃に感じていた(であろう)消化不良な感覚が入り混じったとてもすてきな作品でして、夏休みっぽさを感じるという意味ではこちらの方がよい気がします。
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黄色い目の魚の感想