「リリイ・シュシュのすべて」見たよ

リリイ・シュシュのすべて 通常版 [DVD]

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「僕にとって、リリイだけがリアル」いままで誰も描けなかった、十四歳の世界がここにある。

田園が美しいとある地方都市。中学二年の蓮見雄一(市原隼人)の一家は、実の母と新しい父親とその連れ子の弟との3人家族。学校ではいじめを受け、窒息しそうな毎日。そんな雄一にとって、リリイ・シュシュだけが「リアル」。自分の部屋に閉じこもり、自ら主宰するリリイ・シュシュのファンサイト「リリフィリア」の中だけが、本当の居場所。「フィリア」というハンドルネームが自分のその中で、[青猫]と名乗るリリイファンと知り合い、心を通わせていく。

http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1058

新文芸坐にて。


わたしが映画を好きになったきっかけは「虹の女神」という作品なのですが、その当時から「リリイ・シュシュのすべて」という作品には興味がありました。岩井作品であることと、市原隼人が出ていることがその大きな理由でしたが、今回実際にこの作品を観てみて「この作品をそんな程度の覚悟で見なくてよかった」という思いでいっぱいになりました。
最初から最後まで途切れることなく感じていた胸が強く圧迫されるような、そして逃げ出したくなるくらいの苦しさにはとても参りました。


この作品を一言で言い表すとすれば「生きることに対するネガティブキャンペーン」です。


サブタイトルか何かで「14歳のリアル」という表現でこの作品が形容されているのを見かけた気がするのですが、この言葉から「現代を生きる一般的な10代の現実」を描いた作品なんだろうなと勝手に思ってしまったのですがそれがいけなかった....。
そもそもそんな先入観をもって鑑賞したのが悪いんだろうというのはそのとおりですが、でもほとんどすべてがこの世の終わりみたいな悲惨な出来事ばかりで綴られる物語のどこにリアルがあるのかと憤りを覚えずにはいられませんでした。



そんな負の感情ばかりを生み出したこの作品ですが、こんなに不愉快にさせられた作品なのにすばらしい作品と言わざるを得ないことがとても腹立たしいです。観ているだけなのにヒリヒリとした痛みを伴いそうなくらいの切迫感を感じるこの臨場感はもう本当にすばらしいとしか言いようがないのです。
いじめやレイプ、堕胎といったものをただ取り上げて「これが10代のリアリティ」というだけであれば「恋空」なんかと大差ないはずなのですが、まったく違う。比べるのすら申し訳ないくらいに全然違うのです。
そしてその違いというのは上で挙げたとおり臨場感があるかないかの違いであり、ではその臨場感の有無が何に起因するのかと考えてみると、作品がどこまで踏み込んで表現をしているのかというところにあるのではないかと思うわけです。


例えば、作中で雄一がいじめらるシーンがあるのですが、全裸になってオナニーを要求されるシーンがあります。このシーンの台詞回しはとてもここには書けないほどひどいものですが、でもそのひとつひとつが決してせりふじみたものではなく、本当に中学生くらいの不良が口にしそうな下卑たものであったりするわけです。そして雄一がオナニーをしている映像というのも、かなり遠くから観た様子ではありましたがちゃんと映し出しているわけです。


正直ここまでやらなくても映画としていじめを表現することは可能なはずですが、でもそういったあまり観たくないものも含めて映像にしてしまったことに強く惹かれました。
冒頭では否定的に書いてしまったけれどこの作品の中には確実に14歳の人たちのリアルがあるし、この作品の中の世界があたかも実存するひとつの現実として感じられてしまうためにこ単なるフィクションだと簡単には切り捨てられないのです。


何だか観ているだけで「生きることってほんとうにしんどいよね...」と愚痴りたくなるし、そういった意味で「生きることに対するネガティブキャンペーン」と表現したのです。


すごい作品だとは思うけど、好きとは絶対に言いません。