「マン・オン・ワイヤー」見たよ


1974年8月7日。フランスのある大道芸人が、いまは無きニューヨークのワールド・トレード・センターのツインタワー(高さ528m・110階)を綱渡りで渡ろうとしていた。巨大な2つの建物の間に渡されたロープの上を命綱なしに歩く。こんな無茶な計画を実行する男、フィリップ・プティ。彼は幼い頃から独学で大道芸の道を志しながら、その個性の強さのため多くの学校から放校され、両親からも勘当させられてしまう。だが、同じ道を志す仲間たちと世界中の有名な建物で、自分の信じる芸を貫こうとする…。人々を驚きと喜びでわかせた伝説の大道芸人フィリップ・プティの人生を追ったドキュメンタリー。2008 年サンダンス国際映画祭ワールドシネマ審査員賞&観客賞受賞作品。

『マン・オン・ワイヤー』作品情報 | cinemacafe.net

シアターN渋谷にて。
途方もない夢にとりつかれた一人の男性とその男性の夢の実現に手を貸した人々が、それぞれがそれぞれの思いを語って当時の様子を再現するというドキュメンタリー映画なのですが、期待していた以上によかったです。実際に作品を観るまでは、高所恐怖症のわたしにしてみたら「あんなことをしたいと思うなんて頭のねじが3本くらい抜け落ちてる」としか思えず、正直まったく共感出来る気がしませんでした。ですが、本人の証言や参加した人たちの一言一言を聞いているうちに、何だかものすごく夢のある話のような気がしてしまい、最後にはわたしも綱渡りをしてみたくなってしまいました。彼の楽しそうな様子を見ていたら、何だかやれる気がしてくるから不思議です。


それにしてもこの興奮というか気分の高揚はいったい何事だと不思議でならないのですが、やはり「ものすごいやりたいこと」に向けて努力する人というのは見ているだけで気持ちがよいものだと思います。
そしてその夢がかなう瞬間というのもやはりとても気分が盛り上がるものでして、もう自分の夢が叶うかのように心臓がどきどきしてくるのです。これがもうたまらなくいい。このように、一体感が信じられないくらいたかまってしまった理由について見終わってからじっくり考えてみたのですが、作中ではフィリップの夢に対する想いの強さについて、本人や関わった人たちが自分の言葉で繰り返し繰り返し語っていたのですが、その繰り返しが観ていたわたしの心の中にじわじわとしみこんでまるで自分もその一員であるかのように思い込まされたからではないかと思うのです。
そんなわけで、ワールドトレードセンター間を渡されたワイヤーへ最初の一歩を踏み出した瞬間には言いようのないほど興奮してしまいました。映画を観てこんなに入れ込むなんてのはめったにないことなので、とてもいい経験でした。


そしてそれが終わったあとの寂寥感がまたすばらしい。たしかに達成感もあるのですが、それよりも終わってしまったという寂しさの強烈さ。これがすごくよかった。
そして、フィリップは一躍時の人となってしまったことをきっかけにして、周囲とは決別してしまったということが語られていましたが、その妙にリアルな後日談もまたこの作品への思い入れを強くします。


冒頭、突如語りだす謎のおっさんが出てきたのでいぶかしく眺めていたら、実はその人が綱渡りをした人ご本人だと気付いて吹き出してしまったのですが、このときはまさかこれほどこの作品にのめりこんでしまうなんて思ってもいませんでした。


とてもすばらしい作品でした。


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