「ニセ札」見たよ


昭和20年代。戦後の混乱の中、山村の小学校の教頭を務める佐田かげ子(倍賞美津子)は、生徒に惜しみない愛情を注ぐ一方で、知的障害を持つ息子・哲也(青木崇高)を女手ひとつで育てていた。村中から尊敬されていた彼女の元にある日、教え子のひとり、大津シンゴ(板倉俊之)がニセ札造りの話を持ちかける。最初はつっぱるかげ子だったが、計画に加担する村の名士・戸浦の説得で、心が動く。彼女の参加により、村を挙げての一大ニセ札造りが始まる…。実際の事件を題材に描く、木村祐一の長編初監督作品。

『ニセ札』作品情報 | cinemacafe.net

宇都宮ヒカリ座にて。村ぐるみで偽札を作ったという50年以上前の実話をベースに描かれた作品だそうですが、期待以上にとてもいい映画に仕上がっていました。おもしろかったです。


人が犯罪を犯すとき、いったいどういう気持ちでそれを遂行するのかということはとても興味深いことだと思う。
それなりに社会と関わって生きていると、やっていいこととやってはいけないことというのは分かってくるし、その間にある境界線というのも見えてくる。絶対にその線を越えるのはよくないというのは分かっているけれど、でもあえて超えてしまうその心境はいったいどういうものなのか。
衝動的に犯罪を犯してしまうというケースを除くと、そもそも犯罪を犯すかどうかというのは案外大した理由なんてないのかも知れないなというのがこの作品を観て感じたことでした。
この作品では毎日に退屈さや窮屈さを感じていた人々が、それぞれの能力を生かしてお金を作ってしまう。もちろんお金を作るのはよくないことは知っていたし、だから皆最初は逡巡するわけですが、それでも彼らは偽札作りを決行します。それはお金を作るという行為が面白そうだと感じたというのもあるだろうし、成功すればお金に苦労することもなくなることに魅力を感じていたのもあります。でも一番大きかったのは、お金なんて所詮は紙切れなのだから作ることも大して悪いことではないという理由付けが出来たからというのもあります。自分たちの中でこれは悪いことではないという吹っ切れが出来たときにその線を越えられるのだろうし、どこかでそのような正当と思える理由付けが出来るのであれば人は犯罪を犯すのだろうと思いました。


さて。本作の監督も務めたキム兄は役者として参加されていますが、彼自身の配役がとてもよかったです
彼の過去の出演作でわたしが一番印象に残っているのは「西の魔女が死んだ」という作品でした。この作品で彼は主人公が身を寄せるおばあちゃんの家の近くに住んでいる粗雑で無遠慮な性格な田舎のおっちゃんを演じたのですが、彼自身の風貌もあいまってものすごく役になじんでいました。彼の演技で感心させられるのが、感情の抑揚がすべて表に出てしまうようなおっさんを演じるのがものすごくうまいということです。欲望とか苛立ちとかを一切隠そうとしない幼さがとても不快に感じるほどであり、このリアリティはすばらしいと感じます。
彼自身が監督なのですからもっとかっこいい役を配役してもよかったのですが、自身の得手不得手を理解してこの役に割り当てたことにとても感心させられました。


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