イエスマン “YES”は人生のパスワード


仕事でもプライベートでも「ノー」、「嫌だ」、「パス」と答える極めて後ろ向きの男、カール・アレン(ジム・キャリー)。親友の婚約パーティまですぽっかしてしまい、“生き方を変えない限り、お前はひとりぼっちになる”と言われてしまったカールは、勇気をふり絞って、とあるセミナーに参加する。そこでは、何事も否定せず「イエス」と答えなければならない…。偶然知り合ったアリソン(ズーイー・デシャネル)は、カールの積極的でユーモアのある人柄に惚れ込む。やがて、人が変わったように運気をどんどん上げていくカール。だが、全てが好転し始めたとき、思わぬどんでん返しが待ち受けていた――!? ジム・キャリー主演、ペイトン・リード監督(『恋は邪魔者』)が贈る、BBCラジオのディレクターの実体験を基にしたポジティブ・ストーリー。

『イエスマン “YES”は人生のパスワード』作品情報 | cinemacafe.net

宇都宮ヒカリ座にて。


日本でイエスマンと言えば、「上司の言うことには絶対にノーと言わない人」を指すことが多く、「イエスマン」という言葉にはあまりよい響きを含みません。
「あいつ、すげーイエスマンだよなあ」という言葉が発せられた時には暗に非難の色を含んでいることが多いので、もしあなたがそう言われたときにはヘラヘラと喜ばずに全力で怒ることをおすすめしますが、最近あまり耳にしなくなったのでもう死語と化しているのかも知れません。


さて。
本作のタイトルにある「イエスマン」とはこんな日本的な意味でのイエスマンを賛美したものではなく、「他人から何か頼まれたらイエスと答える」ということを実践する人のことをそう呼んでいるだけです。


主人公のカールは、友人に飲みに誘われても適当な理由をつけては「ノー」と断り、そのような場に出ることはほとんどありません。仕事で何かを頼まれても「ノー」。街中でチラシを渡そうとしても「ノー」と受け取らない。とにかく自分に降りかかるすべてのことを拒否しながら生きているのです。
そんな彼の行動を観た時に、まるで自分の事をみているように感じてしまったのです。
わたしも彼ほどではありませんが他人と過ごす時間よりも一人で過ごす方が好きなので、普段はほとんど飲みに行ったりはしませんし、たまに行ったとしても2次会まで行くことはまれです。よほど仲のいい人の送別会とか、結婚式の二次会くらいであれば喜んで行くのですが、それ以外はまず行くことはありません。面倒だからとか映画を観に行くからと言っては断るのです。
わたしもカールのように「ノー」と言うことが非常に多いのです。


誤解されないように書いておくと、別にお酒が嫌いとか飲み会が嫌いというわけじゃないんです。
学生の頃から飲み会は大好きでして、バイト先の友達や研究室の人たちと毎日のように飲んでましたし、それは本当に楽しかったのです。会社に入ってからも飲み会が楽しいという気持ち自体はさほど変わっていないのですが、同じ会社だというだけのつながりで集まった飲み会は楽しくないんですよねえ。始まって3分くらいで帰りたくなりますし、それであれば最初から行かずに他の事をしていた方がよほど幸せになれるのです。
もちろん、仕事関係でお世話になった方をもてなすとか、お客さんと一緒に飲むのであればそれも仕事と割り切れるので全然嫌ではないですし、さらに同期の飲み会とかは気兼ねなく飲めてとても楽しいのですが、ただ近くにいるというだけの人を集めて「親睦を深めよう」とかそういう名目で集められるような飲み会がものすごく苦手でして、そういうどうでもいい飲み会を繰り返しているうちに他人と一緒に飲むことそのものも嫌いになりそうになっているというのが今の状況です。


と、飲み会に行くのを断る理由というのはいくらでもあるのですが、結局他人から見たらわたしは付き合いが良くないという点については間違いなくそのとおりでして、これについては一切フォロー出来ません。
カールに何となく共感を覚えたという、それ以上の意味はありません。


話を映画に戻しますが、本作はジム・キャリーらしさであふれたものすごく笑える作品でしたが、それと同時に、人間にとって大事なことは一体何なのかということを問いかける作品でもありました。


「人間は人と人の間でしか生きられないのではないか?」
「それだったらより多くの人たちと関係を作ってそれを保ちながら生きるべきなんじゃないか?」



そんなことをこの作品は繰り返し表現しており、また他者からの問いかけやお願いに「イエス」と肯定的にを返すことで、よりよい人間関係が作られるんじゃないかということを強く訴えかけてくるのです。


そしてこれを逆に考えると、「ノー」といい続けて他人を拒絶し続けた人間は、いずれ全ての他人からも拒絶される運命にあるのということを意味します。まったくもって恐ろしい話ですが、上の理屈からするとこの結論が自然と導かれてしまうです...。恐ろしすぎる。
ノーと言わないという誓いを立てたカールは、「イエス」と言わないこと 、つまりは「ノー」といってしまうとそれに対して罰せられるのだと恐れおののき、実際に何かしらのペナルティが与えられてしまうように描かれていたのですが、それはノーといい続けた人間の末路を暗に示しているように感じられて、怖くもあり、でもその露骨さが非常におもしろいなとも感じました。


思いっきり笑ったにも関わらず、鑑賞中/鑑賞後にはいろいろと考えさせられる作品でした。


公式サイトはこちら