裏庭

裏庭 (新潮文庫)

裏庭 (新潮文庫)

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた―教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。

http://www.amazon.jp/dp/4101253315


著者の代表作である「西の魔女が死んだ」はとても評判の高い作品であり、すでにロングセラー作品として本屋の棚に並べられています。また、夏になるとおすすめの作品としてよく挙げられる作品のひとつですし、さらには昨年夏には映画化もされました。
残念ながらこの映画の方はあまり入りがよろしくなかったらしいですが、鑑賞した人の評価は軒並み高く、私も鑑賞しましたが原作がもっていた周囲に溶け込めない"まい"の多感さからくるほの暗い膜が張られているような重苦しさと、大好きな祖母と過ごした楽しさで彩られた明るい日常が混ざり合った世界観がとてもよく表現されていて、原作が好きな人にはたまらないなと感じたことをおぼえています。目に入ってくる風景のどれもが美しくて、原作を映像として補完してくれる点においてこれほど成功した例はなかなかないと感じたほどすばらしい作品でした。


西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)


いま調べてみたら、なんとDVDも出ているんですね。この間映画館で観たばかりだと思っていたのですが、公開は昨年6月でしたので半年以上も前なんですね...。とてもおもしろかったのでこれもおすすめしておきます。


西の魔女が死んだ [DVD]

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そんな著者のもうひとつの代表作として挙げられることの多かったこの「裏庭」という作品。
夏休みに読もうと買ってきておきながら今の今まで手を出していなかったのは400ページと少々厚めだったからなのですが、読み始めてびっくり。なんとファンタジー作品でした...。
実はわたしはファンタジーというのが苦手分野でして今まで最後まで読み切ったことがほとんどないのです。例えば宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」はラスト直前まで読んだのですが、最後の最後に嫌になって投げ出してしまいました。もちろん作品が面白くないというわけではなくて*1、どうも最後は読みたくなくなるのです。その時も何で投げ出してしまったんだろう...と考えてみたのですが、どうもファンタジーな設定や展開自体が嫌だというわけではなくて、現実と幻想世界を行き来することがどうも嫌なんだなと思い、わたしにはファンタジーは合わないんだなと結論付けたのは覚えています。


そんなわけで私としてはファンタジーには手を出さないことを暗黙のうちに課していたわけですが、予想外の伏兵というか何と言うか、とりあえず読み始めてしまったものはしょうがないのでひととおり最後まで読んだのですがやはり苦手だなあと思う部分も多く、予想以上に読みきるのに時間を費やすことになりました。
で、何で苦手なんだろうと考えたのですが、現実とは違う世界が描かれているとその世界の概要をつかむのにえらく手間取ってしまうのです。それが大変なので読んでいるうちに嫌になってしまうというのが原因のようです。
さらに上に書いたとおり、現実と幻想世界を往復するような描写があると、それら両方の世界が対照的に描かれる描写が入ってくるために、余計にどう受け止めてよいのかが分からなくなるのです。現実に対してその幻想世界は何を表しているのか。そんなことを考えだすと、いろんなことが頭に入らなくなってしまいもうさっぱり。このあたりはもう頭のつくりとしか思えないのですが、本当にファンタジーを読むのに向いてないんだなと自分でも感心してしまいます。


そんなわけで読むのに苦労したという以上の感想以外はほとんどなかったのですが、最後の方である人物が発した言葉がとても印象的でその言葉に端を発してさまざまな想像を繰り広げてしまいました。

「日本ではねえ、マーサ。家庭って家の庭と書くんだよ。フラット暮らしの庭のない家でも、日本の家庭はそれぞれ、その名の中に庭を持っている。さしずめ、その家の主婦が庭師ってとこかねえ。」


果たしてこの作品で幻想世界として描かれていた「裏庭」というのは何を表すための隠喩だったのか。
それはぜひこの作品を読んでたしかめてください。ファンタジーが苦手な私ももう一度読み直してみるつもりです。

*1:そもそもこの作品は500ページ弱の文庫本3冊という大作でして、その3冊目のラスト100ページくらいまでは2日で読んだのですから決してつまらなかったわけではないです。