オープンソフトウェアの使い方/自治体にオープンソフトウェアを導入しよう! - デスクトップ編 -

わたしが学生の時に所属していた研究室のサーバはVine Linuxでした。
サーバは実験データの解析や修論の作成といった学生の本分を全うするために利用していたし、また2chへの書き込みや友達とのメールといった私用でも使っていて、研究室に入ってからの3年間は公私問わず日々このサーバにお世話になっていました。
データの解析にはpawやcern libraryがあってとても便利でしたし、シミュレーションにはgccでビルドした自作のプログラムやgeant4というシミュレータを利用していました。修論Latexで作成し、ドキュメントに入れるイメージはgimpを使って作成出来ました。エディタはviがとても使いやすかったし、Netscapeで快適ネットサーフィンも出来ました。自宅にいてもsshでログインして作業は出来たし、そうやってリモートから繋げばmewでメールを確認したり、プログラムを書いて実行してから学校へ行くということも出来たのです。


このように使いやすいツールと環境がそろっていたおかげで、元々コンピュータに明るいわけでもなく、自宅でも大してパソコンを活用していたわけではない私でも全くストレスなしで作業が出来るとてもよい環境でしたし、今思い返してみても本当に快適だったと断言出来るほどよかったです。
とは言っても、あの環境はちゃんとメンテナンス出来る人がいてこそ実現できる環境なわけで、あのレベルの環境は誰にでも用意出来るものではないのですが、とにかくわたしはOSSのすばらしさやポテンシャルに10年前にはふれて恩恵を受けていたのです。
そんな私も、大学を卒業してからは自宅以外では100%Windowsにばかり触れる毎日でしてOSSは自宅でPHPPerlの勉強をする時に使う程度でそれ以外では全く触らなくなってしまいました。それはそれでいろいろと覚えずに済んで楽でよいのですが、わたしの原点はやはりLinuxですし、慣れるまでは面倒だけど使い慣れてきたときのあの吸い付くような使い心地がまた味わいたいなと思うようになりました。


そんな欲求もあって自宅に仮想環境を作ってVine LinuxSuse Linuxを入れてみたのですが、これがもうびっくり。
Windowsライクな*1UIに豊富なアプリケーション。OpenOfficeを入れて、メールはSylpheed、ウェブはFireFoxを入れてそれに慣れてしまえば、普通の人だったらまずWindows固執する理由は一切なくなります。それくらい使いやすいのです。ここまで便利になっていることに驚いてしまったのですが、では今、この世の中にはどのようなOSSがあるのだろうと興味が出てきたのでこの本を手にとって見ました。

オープンソースソフトウェアの本当の使い方 (技評SE新書)

オープンソースソフトウェアの本当の使い方 (技評SE新書)

本書はOSSの始まりや定義に始まり、商用ソフトウェアとの差がなくなってきている部分と差が縮まらない部分の違いについてや、今後はどのようにOSSが普及していくのか、普及させようかという点について分かりやすくまとめられています。
内容としては個人ユースとしてよりも、業務システムのインフラとして利用されるためにはという部分を重視されていて、Linuxミドルウェアがいかにすばらしい発展を遂げてきたのかという点をベンチマークの変遷を参考情報として載せています。PostgreSQLMySQLがバージョンアップと共にいかに改善されてきたのかというのがとても伝わってきました。


もっとも堅牢性を要求される金融業界でもOSSが利用されるケースが増えてきているとありましたし、20年間連続稼動を要求されるようなシステムにも採用されているという話も紹介されていましたが、そういった実績をひとつひとつ積み重ねてきているというのはとても大事なことだと感じます。最近、実績のあるなしでこんなに扱いが違うのか...とショックを受けたことがあったので、こうやって地道に積み重ねていることにとても感心するし、すごいことだなと思うわけです。


現状では大規模システムのインフラとして導入されるケースは少ないものの、一定の規模まではノンカスタマイズのOSSでも十分使えるということが知られてきていているというのはとても参考になりました。


では、わたしが感銘を受けたクライアント環境としてのOSSはどうなのだろうと思ったのですが、その点についてはこの本に載っていませんでした。そのため、他に良い本がないかどうか探してみたらこんな本が見つかりました。



これはIPAが行っている実証実験の結果をまとめた本でして、市町村にOSSを導入して業務をやってみた結果がまとめられています。
業務に必要なアプリケーションの選定から、新しい環境に少しでも早く慣れてもらうための工夫、そして導入に至るまでの大まかな作業フローがまとめられていてこれはかなり面白かったです。
例えば情報系システムの端末をすべてLinuxにして、MS Officeの代わりにOpen Officeを導入したりとかなりの冒険をした栃木県二宮町の事例や対処方法は非常に参考になりました。出来る範囲でやるというスタンスの大事さや、無料にこだわらず商用でもよいものがあれば採用するという姿勢が大事なのだと理解しました。


そういえば先日会津若松市がOpen Officeの導入に踏み切って話題になっていましたが、少しずつ世の中の流れや認識が変わりつつあるんだなと感じさせられます。
わたしはMicrosoftの製品が大好きですし、今も本当に便利に使わせてもらっているのでまったく不満はありませんが、それでも選択肢があるのとないのとではその意味は全く異なってくると思います。別にOOoだからいいとか悪いとかではなくて、使う人が選択するだけの選択肢があって、お金やスキルなどを考慮して使うものを選ぶというのはとてもいいことだし大事なことではないかと思うわけで、そういう意味でもOSSのこれからに期待したいなと思います。


期待するだけじゃなくてお前もやれよというのはそのとおりです。頑張ります。

*1:それがいいかどうかは議論しないことにします