- 作者: 矢口敦子
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2003/06/01
- メディア: 文庫
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36歳の医師・日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の町で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑い始めるが・・・。絶望を抱えて生きる二人の魂が救われることはあるのか?
いつもいく本屋で面白いミステリーとして紹介されていたので思わず手にとってしまいました。そして帯に書かれていた「人の肉体を殺したら罰せられるけど、人の心を殺しても罰せられないんだとしたら、あまりに不公平です」という文章に惹かれて買ってしまいました。やっぱり帯の文章って大事だよなあ。
さて。最近読んだミステリーがことごとく面白かったのでまたもやミステリーに手を伸ばしてみましたが、本書も例に漏れずとても読み応えのある楽しい作品でした。
家族を省みなかったせいで家族を失ってしまったことや、がんばって患者を助けたことで余計苦しめてしまったことをひどく後悔してホームレスになるという奇異な人生を送っている日高の心理/思考の描写がとても精密で魅了されました。自らの罪を認め、そしてその罪の重さに耐えかねて潰れてしまったその彼の姿からは彼の誠実さ/もろさがにじみ出ているのですが、一方では昔の自分を捨て去ることで名のない一人のホームレスとして生きていくというアバウトさや強さも見えます。読み進めれば進めるほど日高の人物像が立体的に見えてくるのが非常に面白く、ついつい読みふけってしまいました。
あとはストーリーについてですが、中盤の真人が犯人であるという状況証拠がそろい始めるあたりの盛り上がりは非常によかったのですが、それに比して結末があまりに弱々しかったのは残念でした。でもあまりオチに期待するのもよくないなと思いますし、そう考えれば妥当な終わりなのかもしれません。
この本を読み終えて、善行というものの難しさにすごく気持ちが重くなりました。
私は、人を怒らせるよりは喜んでもらいたい/感謝されるようなことをしたいという気持ちでいます。だけど、自らが善行と思ってやっていることが本当に相手のためになっているのかどうかということをしっかりと考えたことはありませんでした。
自分の感覚でいいこと/悪いことを勝手に区切っていました。
だから、例え相手のことを考えて行った行為であっても、その結果その人を苦しめているのであればそれは善行ではなく償うべき行いなのだというのは非常に重い指摘だと感じました。思い込みはよくないし、親切の押し付け(というほど人に積極的にかかわろうともしていませんが)もよくないよね、と思ったのでした。
最近はいい本に出会えてうれしいな。